みなさま、こんにちは。
今回は春から予防の始まるフィラリア症について解説をしていきたいと思います。
フィラリア症ってどんな病気?
まず、フィラリア症とはそもそもどんな病気でしょう?
フィラリア症は、犬糸状虫症(いぬしじょうちゅうしょう)とも呼ばれます。
蚊が媒介する犬糸状虫が寄生する疾患で、初めは幼虫が血管内で成長し、やがて成虫になって心臓に寄生する、というサイクルを辿ります。
フィラリア症にかかるとどうなるの?
心臓の中では主に肺動脈という場所に寄生するのですが、これにより肺動脈が傷害されたり血栓が形成されたりして徐々に血流動態に影響を及ぼします。
また、肺動脈に寄生していた成虫が突然心臓内に移動して急激な全身状態の悪化を起こすケースもあり、これを大静脈症候群と呼びます。
犬糸状虫症の症状はこの肺動脈障害と血流動態への影響により発生します。
具体的には、咳が出る、動きが悪くなる、血尿が出る、呼吸困難、腹水がたまるなどです。
また、大静脈症候群の際はこれらが急激に発症します。
フィラリア症を予防するには?
次にフィラリア症の予防についてです。
当院が実施している予防方法は次のようなステップです。
① 4-5月に昨年度の予防実態に応じて必要な血液検査を実施
② フィラリア症に罹患していないことを確認したら5月〜12月の8ヶ月間、毎月1回薬を服用もしくは滴下する
③ 1月〜4月は休薬期間
これを毎年繰り返します。
フィラリア症予防が5月~12月なのはなぜ?
ここで、予防期間の設定を5〜12月の8ヶ月間にしている理由を解説します。
まず、蚊の生態からです。
前述した通り、フィラリア症は蚊の吸血によって媒介される感染症です。
蚊は気温が16℃を超えると吸血行動をすることが知られています。
よって、夏が過ぎて秋に入っても暖かい日があるとフィラリア症を媒介する可能性があります。
フィラリアの薬は厳密には予防薬ではなく駆虫薬
次に、予防薬についてです。
フィラリア症の『予防薬』と表現されますが、実際はフィラリア幼虫を駆除するための駆除薬です。
つまり、投与日から先の予防効果を発揮するのではなく、投与日に仮に感染していてフィラリア幼虫が血管内にいた場合に、それを駆除するという効果を発揮しています。
最終投与を12月に設定しているのは、11月中に気温が16℃を超える日があった場合、蚊に吸血されている可能性があり、そこでの感染に対して駆除を行うには12月に薬を投与する必要があるからです。
フィラリアの予防前に血液検査が必要なのはなぜ?
また、毎シーズン予防開始前に血液検査を行う理由についても解説します。
前述した通り、フィラリア幼虫は血管内に寄生し成長します。
この時、幼虫は宿主(寄生されている動物のことです)の免疫から逃れるので、免疫細胞は幼虫を駆除する動きを起こしません。
しかし、駆除薬によって血管内の幼虫が死んだ場合、死骸は異物として免疫細胞に処理されます。
すなわち、大量に幼虫が寄生している状態で駆除薬が投与されると、過剰な免疫応答が発生し、アナフィラキシーショックを起こし、最悪の場合、亡くなってしまう可能性もあります。
これを防ぐために、予防薬投与前に必ず検査を実施します。
(ただし、通年で予防をしていたり、12ヶ月有効な予防薬を投与されている場合はこの限りではありません)
フィラリアのお薬はどんなタイプがあるの?
次に、予防薬の剤型についてです。
さまざまなフィラリア予防薬が開発され、各社それぞれ特徴的な製品があります。
当院で扱っているのは主に、チュアブルタイプ、錠剤タイプ、スポットオンタイプの3種類です。
これらを投与のしやすさ、投与による有害事象の発生などを踏まえた上で選択して使用します。
また、それぞれ体重によって規格が設定されているので、成長期の子や体重の変動がある子の場合は体重測定をしに来ていただくケースもあります。
実は犬だけじゃない!猫のフィラリア症
最後に、猫のフィラリア症についてです。
『犬糸状虫症』という名前ですが、猫もこの病気にかかります。
ただし、猫の体内ではフィラリアの発育が悪く、犬のような典型的な症状を示さないことが多いです。
しかし、猫では症状を起こさずに感染が成立し、突然死が発生した症例も報告されているため決して侮ってはいけない病気です。
犬と同様、猫でも適切な予防を実施することをおすすめします。
いかがでしょうか。
飼い主さんの予防意識の上昇とともに、以前よりは発生件数が減ってきたフィラリア症ですが、まだまだ目にします。
春になったらフィラリア予防が始まるな、ということを認識していただいている飼い主さんに今回の記事を読んでいただき、予防する上で知っておきたい情報が伝えられれば幸いです。
文責:獣医師 小川