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みなさま、こんにちは。

今回は無麻酔での歯石除去の是非についてお話したいと思います。

歯石除去は無麻酔で出来るの?

まず結論です。

当院では絶対に無麻酔での歯石除去は実施しません

診察時に口の中を診ていると、程度の差はありますが歯周病のワンちゃん・ネコちゃんが非常に多いです。

飼い主さんが認識できているケースとそうでないケースがあるのですが、たまに耳にするのが

「歯石除去って全身麻酔をするんですか!?」

「トリミングサロンで無麻酔でやってるって聞いたんですけど・・・」

こういった質問です。

確かにヒトが歯科医で歯石除去をしてもらう際には全身麻酔は行われないので、イメージの相違があるのかもしれません。

ヒトは治療をすることやその内容を理解した上で協力できるので麻酔をかける必要がありません。

しかし、ワンちゃん・ネコちゃんはそうではありません。

無麻酔で歯石除去をするメリット

無麻酔で歯石除去をする上で得られるメリットは、『全身麻酔をかけないこと』の一点のみです。

無麻酔での歯石除去は圧倒的にデメリットが多い

一方、無麻酔歯石除去のデメリットは以下のようなものが挙げられます。

・歯周病の進行最前線である歯肉縁・歯周ポケットに無麻酔でアプローチすることは困難であること

・目に見える範囲の歯石だけを除去することは動物の健康維持には効果がなく、単にきれいになった感じがするだけであること

・舌側・口蓋側・後臼歯部など、無麻酔ではアプローチが困難な点があること

・固着した歯石を除去するために無麻酔で鋭利なスケーラーを口腔内で操作すると、組織損傷の危険性があること

・歯冠部(目に見えている部位)はきれいになったように見えるので、歯周病が隠されてしまい、飼い主さんが気づかないうちに重篤化してしまうこと

・歯石除去後のポリッシング(研磨)ができないので、歯の表面が粗造になり歯垢・歯石が沈着しやすくなること

・不完全にしか処置が出来ないにもかかわらず、意識下で我慢させられたり痛みを感じたりするため、その後のデンタルケアを嫌がるようになる可能性があること

・重度歯周病の症例では無麻酔歯石除去により顎骨骨折などの重篤な合併症を引き起こす可能性があること

メリット(僕はこう呼ぶのさえ疑問に感じています)と比べてデメリットが圧倒的に多いです。

確かに、全身麻酔はリスクを伴う行為であり飼い主さんが、「麻酔をかけないで済むのなら」と思う気持ちは理解できます。

しかし、こんなデメリットだらけの処置を行なうことがワンちゃん・ネコちゃんの健康維持には繋がりませんし、かえって健康を損なう可能性が高いです。

そしてこれは獣医師側が正しい知識を持ち、飼い主さんに対して適切な説明をすることの責任が大きい事象でもあります。

実際に、無麻酔での歯石除去についてはアメリカ獣医歯科学会・ヨーロッパ獣医歯科学会でも推奨していません。

ワンちゃん・ネコちゃんの日頃のデンタルケアが重要

歯周病は飼い主さんが気づかれていないだけで、実際には発症している子が非常に多い病気です。

これを予防するためにも日頃のデンタルケアの導入・維持がとても重要です。

(詳しくはこちらの記事をご参照ください

歯みがきが上手にできなくてお困りの方、歯周病の有無が気になる方は診察時にお尋ねになってください。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回は、ネコちゃんのトイレと排尿障害についてのお話をしたいと思います。

寒くなると増えてくるネコちゃんの排尿障害

最近、急激に寒くなってきましたね。

冬になると増える傾向がある病気の一つに排尿障害があります。

そして、ネコで排尿障害を起こす病気としては膀胱炎が最もよく知られています。

この膀胱炎を起こす要因として内的要因と外的要因が存在すると考えられています。

外的要因には生活環境、食事、そしてトイレが含まれています。

すなわち、トイレの環境を適切に整備してあげることで膀胱炎の予防・治療につながるのです。

ネコちゃんにとって理想的なトイレ環境は?

では、ネコちゃんにとって適切なトイレとはどんなものでしょうか。

答えは『公園の砂場のような場所』です。

つまり、

十分な広さがある

→体長の1.5倍以上が望ましい。

遮蔽物に覆われていない

→ドームに覆われているタイプのトイレを使用している場合、可能ならドームは外すことが望ましい。

十分な量の砂があり、排泄物の痕跡をきちんと隠せる

→砂をたくさん掻いてもトイレの底がみえないくらいの量が必要。

この条件を満たしてやる必要があります。

これが満たされていないトイレを使用していると、トイレ以外の場所での不適切な排尿が増えたり、排尿を我慢することによって膀胱炎を発生させてしまいます。

ネコちゃんのトイレ環境で気をつけたいポイント

また、次のような点にも気をつける必要があります。

・多頭飼育の場合、トイレはネコちゃんの数+1つ以上用意する

→それぞれの専用トイレがあることが望ましい。

ただし、飼育頭数が多く設置数に限界がある場合は、ネコちゃんのグループ数+1つ以上の設置が望ましい。

・砂の材質はネコちゃんの好みに合わせて選択する

→鉱物系、木材系、紙系などさまざまな種類があるが鉱物系を好む傾向にある。

ただし、好みが別れるのでケースバイケースで選択する。

・トイレはネコちゃんが落ち着く場所に設置する

→人の出入りが激しいドア付近の設置は避けるべき。

また、家電の近くに設置すると急な音や振動、光などの意図しない刺激が発生する可能性があるので避けるべきである。

いかがでしょうか。

ご自宅のトイレの設置状況を振り返ってみて、これらの条件を満たしているでしょうか。

さらに、不適切なトイレの整備は排尿障害だけではなく、トイレ以外の場所での排尿の常習化という問題行動を誘発する可能性もあります。

排尿障害、問題行動のいずれについてもトイレの整備を含めた外的要因を適切に管理する必要があります。

冬本番になると診察件数が増える排尿障害ですが、トイレの整備という取り組みやすいところから病気の予防になってくれると幸いです。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回はワンちゃん・ネコちゃんの避妊手術を実施することで得られるメリットと発生するリスクについて解説していきます。

ワンちゃんが避妊手術を受けるメリット・デメリット

前回、去勢手術についてのお話をさせていただいたのですが、避妊手術についてのご相談も受けることが非常に多いです。

そもそも避妊手術ってなに?

まずは避妊手術という言葉の定義からお話します。

今回のお話では、

『避妊手術=子宮・卵巣の切除術』

このように定義しています。

(※理由はこの後登場します)

ワンちゃんが避妊手術を受けるメリット

では、まずはワンちゃんのお話からです。

ワンちゃんが避妊手術を実施することで得られるメリットは次のようなものが挙げられます。

①不適切な妊娠を回避できる

②発情周期に依存した体調の変動が消失し子宮・卵巣疾患の予防ができる

③早期に避妊手術を実施することで乳腺腫瘍の発生リスクが軽減できる

②については、子宮卵巣切除を実施するので子宮卵巣疾患の発生を防ぐことができます

同時に、卵巣から分泌されるホルモンの影響が消失するので発情に関連する体調不良も消失します。

③については以下のような論文(https://academic.oup.com/jnci/article-abstract/43/6/1249/910225)が発表されています。

『避妊手術を実施するタイミングと未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率がどうなるか

・初回発情までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が0.5%に減少

・初回〜2回目までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が8%に減少

・2回目以降に実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が26%に減少』

避妊手術を実施すれば100%乳腺腫瘍の発生を予防できるわけではありません。

しかし、未避妊犬と比較して明らかに発生率に差があることが報告されているため、僕は2回目の発情までに避妊手術を実施することを勧めます

また、この論文で行われている術式が子宮卵巣切除術であるため、冒頭で述べたように

「避妊手術=子宮卵巣切除術」と定義しています。

ワンちゃんが避妊手術を受けるデメリット

では、避妊手術を行なう上で予想されるデメリットはどんなものがあるでしょうか。

①全身麻酔をかける必要がある

②術後の増体重が発生する可能性がある

①については去勢手術のお話でも述べた通り、個別に麻酔のリスクを判定した上で術前に飼い主さんにお伝えします。

②についても同様に、術後ご飯の量が同じでも体重が増えてしまう子がいます。

特に、避妊手術後の子が最も多い印象があるため、体重過多になった場合は適切な減量の指導を行ないます。

ネコちゃんが避妊手術を受けるメリット・デメリット

次はネコちゃんのお話です。

ネコちゃんが避妊手術を受けるメリット

ネコちゃんに避妊手術を実施することで得られるメリットは次のようなものがあります。

①不適切な妊娠が避けられる

②子宮・卵巣疾患の発生予防ができる

③早期に避妊手術を実施することで乳腺腫瘍の発生率を下げることができる

①、②についてはワンちゃんと同様です。

③については、特にネコちゃんで非常に重要です。

猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性腫瘍であり、どこかに1つでも腫瘍があると片側乳腺の全摘出術が推奨される極めて厄介な疾患です。

猫においても次のような論文が報告されています。

『避妊手術を実施するタイミングと未避妊猫と比較した乳腺腫瘍発生リスク減少率

・生後6ヶ月齢までに実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率91%

・7〜12ヶ月齢で実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率86%

・13〜24ヶ月齢で実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率11%』

(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1939-1676.2005.tb02727.x?sid=nlm%3Apubmed)

ワンちゃんと同様、避妊手術を実施していれば100%乳腺腫瘍の発生を予防できるわけではありません。

しかし、前述したようにネコちゃんの乳腺腫瘍はほとんどが悪性であることと、早期の避妊手術実施で発生リスクを減らせる可能性があるため、僕は生後1年までで避妊手術実施を勧めます。

ネコちゃんが避妊手術を受けるデメリット

では、避妊手術を行なう上で予想されるデメリットはどんなものがあるでしょうか。

①全身麻酔をかける必要がある

②術後の増体重が発生する可能性がある

こちらはワンちゃんと全く同じです。

ただし、②についてはネコちゃんの方がよりコントロールが難しい場合が多いため注意が必要です。

いかがでしょうか。

前回と今回に渡り、去勢手術と避妊手術についてのお話をさせていただきました。

飼い主さんの関心が高い話題なのですが、疾患との関連(特に乳腺腫瘍)についてはまだまだ周知されていない印象を受けます。

今回のお話が疾患の予防に結びついてくれれば幸いです。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回はワンちゃん・ネコちゃんの去勢手術を行なう際のメリットとリスクについて解説していきます。

ワンちゃん・ネコちゃんの去勢手術のメリット・デメリット

「去勢手術ってやっぱりやっておいた方が良いですか?」

日頃診察している際に、とてもよく聞かれる質問です。

飼い主さんの関心も高く、ワンちゃん・ネコちゃんで考え方が変わってきます。

今回はワンちゃん・ネコちゃんそれぞれで去勢手術を行なう際の目的と発生するリスクを分類してお話します。

ワンちゃんが去勢手術を受けるメリット

まずはワンちゃんからです。

ワンちゃんに対して去勢手術を実施する際に得られるメリットは以下の通りです。

①未避妊雌と接触する可能性がある場合、不適切な妊娠が回避できる。

②精巣腫瘍を含む精巣疾患の予防ができる。

③高齢犬に好発する前立腺疾患の予防効果がある。

特に②と③については去勢手術を実施している子としていない子で発生率が大きく変わってきます。

飼い主さんとお話する際も、この点を特に重要視しています。

ワンちゃんが去勢手術を受けるデメリット(リスク)

次に、ワンちゃんに対して去勢手術を実施する際に考えられるリスクは以下の通りです。

①全身麻酔を実施する必要がある。

②去勢手術実施後の体重管理が困難になる可能性がある。

①については全ての手術で発生するリスクであり、去勢手術に関しても例外ではありません。

②については、多くのケースで体重増加傾向を認める印象があります。

体重過多が管理できない場合は個別にダイエットの指導を行ないます。

ネコちゃんが去勢手術を受けるメリット

次はネコちゃんです。

ネコちゃんに対して去勢手術を実施する際に得られるメリットは以下の通りです。

①スプレー様の排尿行動が消失する可能性がある。

②精巣腫瘍を含む精巣疾患の予防ができる。

①については消失するケースが多いのですが、中には全く行動の改善が認められないケースもあるので注意が必要です。

②についてはワンちゃんと比べてネコちゃんでは精巣疾患の発生が稀であるため、主目的として捉えてはいません。

次に、ネコちゃんに対して去勢手術を実施する際に考えられるリスクは以下の通りです。

①全身麻酔を実施する必要がある。

②去勢手術実施後の体重管理が困難になる可能性がある。

こちらはワンちゃんと同様です。

さまざまなシチュエーションで去勢手術実施の是非を検討してらっしゃる飼い主さんがおられるかと思います。

今回お話させていただいた内容は、一般的に去勢手術を実施する際のメリットとリスクについてです。

基礎疾患を抱えている子や特殊な事情があって去勢手術を検討されている場合は、今回のお話だけではカバーできていないので直接獣医師にご相談ください。

いかがでしょうか。

次回はワンちゃんとネコちゃんの避妊手術に関してのお話を予定しています。

こちらも合わせて確認してみてください。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回は、ワンちゃん・ネコちゃんの爪切りについてお話させていただきます。

みなさんはご自宅でワンちゃん・ネコちゃんの爪切りをしていますか?

抵抗なく爪を切らせてくれる子、初めは我慢できるけど途中で嫌がってしまう子、そもそも触らせない子などさまざまな状況があるかと思います。

今回は爪切りの導入の仕方、爪切りの選択、爪切りをしないことによる弊害について解説していきます。

ワンちゃん・ネコちゃんの爪切りはどうやるの?

まずは、ご自宅での爪切り導入の方法からです。

幼犬・幼猫時から爪切りを習慣化しよう

爪切りを習慣化するのに最適なタイミングは幼犬・幼猫時です。

ご自宅に来た頃から爪を含めた手先・足先を触ることに慣れておくと、大人になってからも爪切りに抵抗を覚えない場合が多いです。

また、この時期はハミガキを導入するのにも適した時期です。
(詳しくはこちらのハミガキについての記事をご参照ください)

大人のワンちゃん・ネコちゃんの爪切りを習慣化する3つのポイント

また、すでに大人になっている子の爪切りを今から頑張ってみようという場合は、次のポイントを押さえながら徐々に爪切りの習慣をつけていきましょう。

①一気に全ての爪を切ろうとせず、抵抗が出たらやめましょう。

②爪切りが終わったらご褒美(フードや少量のオヤツ)までを1セットにして習慣化する。

③それでも嫌がる子や、飼い主さんが不安な場合は動物病院を受診する。

爪切りは一気に終わらせてしまいたい気持ちはとてもよく分かります。

しかし、気長に地道に行なっていく方法がベストなので、くれぐれも無理はなさらないようにしてあげてください。

ワンちゃん・ネコちゃん用の爪切りはどれがおすすめ?

次は爪切りの選択についてです。

ワンちゃん・ネコちゃん用の爪切りはハサミタイプ・ニッパータイプ・ギロチンタイプ・電動タイプなどさまざまな種類があります。

僕も診察時にどれが良いかを質問されます。

飼い主さんの使いやすい爪切りを選択しましょう

僕の回答としては、

「飼い主さんの手に馴染んで使いやすいものを使用してください。」

これです。

各タイプにそれぞれメリット・デメリットはあります。

実際に使ってみて使いやすいものを選ぶことが事故予防に繋がります。

(ちなみに僕はニッパータイプとハサミタイプを状況に応じて使い分けています)

ワンちゃん・ネコちゃんの爪切りをしないとどうなるの?

最後に、爪切りをしないとどのような弊害が発生するかを解説します。

まずは、伸びすぎた爪が引っかかる又は折れてしまう事故が発生します。

これは、ワンちゃん・ネコちゃんいずれでも発生します。

ワンちゃんの場合、爪が伸びすぎたままで歩くと爪自体が引っかかって損傷するだけでなく、脚を滑らせて肩や膝の関節を損傷するケースもあります。

ネコちゃんの場合、もともと爪を使って木に登るので把持する力が非常に強いです。

そのため、しがみ付いたネコちゃんを引き離す際に爪が剥離してしまったり、あるいはどこかに爪が引っかかった際、パニックになり暴れて爪を損傷するケースが多いです。

次に、伸びすぎた爪が湾曲し皮膚に刺さるケースです。

これは狼爪(いわゆる親指の爪です)でよく発生します。

爪が指の付け根の皮膚方向に向かって伸びてしまい、皮膚に突き刺さりながら伸び続けてしまいます。

こうなると常に痛みが生じ続けるので動かなくなったり、動きが悪くなったりします。

とくに高齢の子でみるケースが多いので、思い当たる方は一度爪をチェックしてみてください。

また、爪が伸びると同時に中に入り込んでいる血管と神経も伸びます。

定期的に爪を切っておかないと、適正な位置で切ろうとしても既に血管と神経が入り込んでしまい、出血と痛みを伴ってしまいます。

アスファルトの上を散歩するワンちゃん達は爪が削れるので発生しにくいのですが、完全室内飼育またはごく短時間の散歩のみの小型犬はこの状況に陥りやすいので注意してあげてください。

いかがでしょうか。

今回はワンちゃん・ネコちゃんの爪切りについて解説しました。

最も身近なケアの一つである爪切りですが、意外と難易度が高い場合があります。

今回のお話が日頃のケアの重要性を見つめ直す機会になれば幸いです。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回は猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症についてお話していきます。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症はどんな病気?

FIVは猫に感染して免疫不全症を引き起こす可能性のあるレトロウイルスです。

感染ルートは、主にFIVを保有するネコに噛まれた際に唾液や血液を介して伝播します。

つまり、完全室内飼育のネコでは感染リスクが低く、逆に外出するネコの場合は感染リスクが高くなると考えられます。

ネコがFIVに感染した際、次のような病態を辿ります。

①急性期

感染直後の数日間。発熱、食欲不振、リンパ節腫脹などがみられます。

ただし飼い主さんが気づかないケースがほとんどなので、このステージの猫を診察する機会がごく稀です。

②無症候性キャリアー期

急性期を経てウイルス血症が抑制された後、数年間は無症候で経過します。

そのままウイルスの複製が免疫によって持続的に抑制された場合、無症候のまま寿命を全うすることもあります。

③全身性リンパ節腫大期

全身のリンパ節腫大がみられることが多いです。

ただし、これも目立たないケースがあるため飼い主さんが気づかないことがあります。

④エイズ関連症候群期

口内炎・歯肉炎・上部気道炎・反復性細菌感染症・外部寄生虫感染症など免疫異常に伴う症状が現れ出します。

特に口内炎は難治性で強い痛みを伴うケースが多く、食欲低下や体重減少を起こしてしまう場合があります。

⑤後天性免疫不全症候群期

FIV感染症の末期で、さまざまな日和見感染症(通常の免疫力があれば感染しないような病原体に感染してしまうことです)や貧血、白血球減少症、腫瘍など免疫不全によって発生する症状が認められます。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症はどうやって調べるの?

次に、FIVの診断についてです。

診断は主に抗体検査キットを用いて実施します。当院で取り扱っている検査キットでは即時検査が可能です。(10分程度)

検査対象は、FIV感染を疑う症状を認めるネコ、これから飼い始める予定のネコ、野良猫との接触を疑うネコなどです。

ただし、FIV感染から抗体が作られてキットで検出できるようになるまでには2〜3ヶ月ほどのタイムラグが生じます

また、母猫がFIVキャリアーである子猫の場合、移行抗体というお母さんからもらう抗体の影響で偽陽性が出ることがあります

そのネコが本当にFIV感染しているのか正しく評価するためには適切なタイミングあるいは複数回の検査が必要となります。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症の予防や治療は?

次は予防と治療についてです。

FIV感染予防は、

ネコを完全屋内飼育にして外に出さない

これに尽きます。

主な感染ルートがFIV陽性猫による咬傷なので、そもそも接触する機会がなければ感染する心配はありません。

また、他のウイルス疾患、外傷、長期低栄養による肝リピドーシス、交通事故など飼い猫が外出することによって発生するリスクは数え切れません。

これらを予防するためにも完全屋内飼育を強く勧めます。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症は根治が難しい

また、治療についてですが残念ながらFIVは一度発症してしまうと根治させる治療方法が確立されていません

主な治療は、口内炎や上部気道炎などに対するステロイドを用いる方法や、反復する細菌感染に対して抗生剤を適宜使用する対症療法になります。

猫インターフェロンωの投与で生存期間が延長した報告もあるので、飼い主さんと情報共有しながら対症療法に何を組み込むか決定していきます。

いかがでしょうか。

今回はFIV感染症についてのお話をさせていただきました。

感染していない子は完全屋内飼育を徹底することで感染を回避することができます。

また、すでに感染している子も無症状のまま寿命を全うしてくれることもあります。

ただし、発症してステージが進むと目に見えてQOLが下がっていきます。

感染しないためにできることを徹底する。

万が一、感染してしまった場合はその時その子が置かれている状態に応じて必要な対症療法を積極的に行なうことでQOLを保った生活を送ることができます。

今回のお話がFIV感染症という病気を理解するための参考になれば幸いです。

文責:獣医師 小川

今回はワンちゃん・ネコちゃんの乗り物酔いに関してお話したいと思います。

ワンちゃん・ネコちゃんも乗り物酔いをする?

ご存知ない方も多いかと思いますが、ワンちゃん・ネコちゃんもヒトと同じように乗り物酔いをすることがあります。

乗り物酔いは正式には動揺病と言い、乗り物の振動や加速などの刺激によって発生する一過性の病的反応と考えられています。

実際に、車に乗って病院に来たワンちゃん・ネコちゃんが車中や診察室で嘔吐をするケースにしばしば遭遇します。

乗り物酔いを引き起こす原因としては次のようなことが知られています。

①乗り物の揺れ・加速度の変化など

→日常生活を送っている際、ワンちゃん・ネコちゃんの体は生活の中で行なう動作の感覚を学習していきます。

ところが、乗り物によって引き起こされる揺れや加減速によって生じる重力は予測する感覚とズレが生じます。

このズレによって生まれる混乱が自律神経反射を誘発し、悪心や嘔吐が発生すると考えられています。

②車中の匂い・緊張

主な発生原因は①なのですが、緊張状態は車酔いに拍車をかけます。

大半のワンちゃん・ネコちゃんにとって車での移動は非日常的なイベントなので当然緊張します。

この緊張が迷走神経反射を強化し、悪心・嘔吐の発生率を高める可能性があります。

また、車中はさまざまな匂いがこもりやすい環境です。

ヒトよりも嗅覚刺激に敏感なワンちゃん・ネコちゃんにとって、車中の匂いも不快感を高める一因になってしまいます。

③満腹あるいは空腹

→食後すぐの状態あるいは空腹の状態で乗り物に乗ると、乗り物酔いが誘発するリスクが上昇することが知られています。

ワンちゃん・ネコちゃんの乗り物酔いを防ぐには?

これを踏まえた上で乗り物酔いを予防するための工夫として次のようなものが挙げられます。

①キャリー使用およびキャリーにタオルをかける

目から入る情報を制限することで感覚のズレを軽減し、乗り物酔い発生のリスクを下げる目的です。

また、キャリーを足元に置いたり、同乗者が押さえて揺れをなるべく軽減させるのも良いかもしれません。

②適度な換気・空調

匂いがこもりっぱなしになるのを避けるために走行中、時々窓を開けて換気をしてあげてください。

ただし、窓を全開にすると飛び出し事故につながるので、必要最小限で構いません。

また、タバコや芳香剤を使用している場合は、それらの使用中止や撤去を考えてみても良いでしょう。

③出発前に少量の食事を与える

空腹による車酔い発生を避ける目的です。

食べ過ぎてしまうと車酔いを起こしやすくなるので注意しましょう。

腹1分目くらいが目安です。

また、水は十分に与えトイレを済ませてから出発するのが望ましいです。

ただし、この方法は絶食指示が出されている際に動物病院に行く時は使えませんのでご注意ください

④抗動揺病薬の使用

→いわゆる、酔い止めの薬です。

①~③の工夫をしてみても車酔いしてしまう子はいるので、その場合は薬を処方します。

出発の1時間前に薬を飲ませてあげてください。

また、薬を飲んだ状態で①~③を合わせて行なうと、より効果的です。

いかがでしょうか。

実は僕自身が車酔いをするので、辛さが身に染みて分かります。

今回ご紹介したものの中で、抗動揺病薬は特に効果的だと認識しています。

実際に、処方した子の飼い主さんにお話を伺っても使用感が良いケースが多いです。

ワンちゃん・ネコちゃんの乗り物酔いに悩んでおられ、抗動揺病薬の使用を検討されている方は一度診察にいらしてください。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。


本日は肛門腺しぼりについてのお話をしたいと思います。

肛門腺とは

ワンちゃんもネコちゃんも肛門付近(時計の4時と8時方向)に袋状の器官があります。

これを肛門腺(または肛門嚢)と呼び、内部に分泌液が溜まっています。

肛門腺に分泌液が溜まるとどうなるの?

この分泌液が排便とともに排出される子もいれば、排出されずにどんどん溜まってしまう子もいます。

そして、溜まってしまう子の場合、自分で気にして舐めたり、お尻を地面に擦るような仕草をします。

これが続いてしまうと、皮膚が欠損し穴が開いてしまいます
(とても痛いです)。

これを予防するために僕たちは診察時に必ずと言っていいほど肛門線のチェックをしています。

肛門腺はどうやってしぼるの?

肛門の4時と8時方向の部分を触ると、分泌液が溜まっている子の場合は袋状の器官があるのがよく分かります。

この袋を保持してゆっくりと圧力をかけてやることで、内部の分泌物を排出することができます。

文章を読むだけでは伝わりにくいので、ご自宅でチャレンジしたい飼い主さんには目の前でやり方をお見せしてレクチャーしています。

肛門腺に溜まる分泌液

診察時に肛門線しぼりをする際、溜まっていたら必ず排出させて観察します。

通常、溜まる分泌物は茶色の液体なのですが、ペースト状に固まったものが溜まる子もいます。

この場合、排出させるのが難しくなるので、ご自宅で実施困難な場合は無理せずに診察時におっしゃってください。

おうちでの肛門腺しぼりが難しい場合は早めの受診を

また、普段は茶色の液体が排出されるのに緑色の膿状の液体が排出されたり血液が混入しているケースがあります。

この場合、肛門嚢炎等の疾患を起こしている可能性があるので適切な治療介入が必要となります
(ご自宅で発見された場合は早めに受診してください)。

ネコちゃんの肛門腺しぼり

また、ネコちゃんの肛門腺についてですが、ワンちゃんと比べると溜まってしまうケースは少ないです。

ただし、排出できない子もいるので注意は必要です。

猫ちゃんの場合、ワンちゃんと解剖学的な位置関係は同一なのですが、肛門腺の開口部に分泌物が詰まってしまうケースが多いです。

この詰まりを解除してあげないと圧力をかけても内部の分泌液が排出されないので、無理矢理しぼると痛がり触らせてくれなくなります。

特に猫ちゃんは違和感を感じる部位に対する舐め壊しがすぐに発生します。

猫ちゃんがお尻周りを気にして舐めていたり、お尻周りに分泌物の付着を見つけた場合は早めに診察にいらしてください。

いかがでしょうか。

初めてワンちゃん・ネコちゃんを飼われる方の中には、肛門線の存在を知らない方もいらっしゃるかと思います。

また、存在は知っていても溜まったままにしておくと疾患が発生する可能性があることを知っていただけたかと思います。

ご自宅で肛門線しぼりにチャレンジしてみたい方、またはワンちゃん・ネコちゃんがお尻周りを気にしていて心配な方は診察時にお伝えください。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回は手術や検査などの際の、事前の絶食の重要性についてお話します。

忘れると危険!?検査・手術前の絶食の重要性

『次回、〇〇の検査を予定していますので絶食して来院してください。』

『◯月◯日に手術を行ないますので、絶食して来院してください。』

普段、動物病院でこのようなことを伝えられたことはないでしょうか。

ワンちゃん・ネコちゃんのご飯を抜くのは人間が自ら絶食するよりも難易度が高いかと思います。

しかし、検査や手術をする上で絶食下であることはとても重要なことです。

そこで今回は、なぜ絶食する必要があるのか、絶食していないとどうなるのかについて解説していきます。

まず、絶食をする理由です。

嘔吐・誤嚥の危険性がある

これは主に全身麻酔下での手術の時に危惧される事態です。

麻酔の導入の際、鎮静薬の作用で嘔吐を誘発するケースがあります。

この時、胃が空っぽなら少量の液体を吐くだけで済みます。

しかし、胃に食べたものが入っていると大量の固形物を吐くことになります。

加えて、鎮静状態になっているので通常の姿勢を保つことができず、その結果誤嚥を起こす危険性が上昇します。

検査結果に影響が出る

これは血液検査を行う際に考えられます。

直前の食事によって数値に変動が生じる項目の場合、疾患によって数値が変動しているのか食事の影響なのか鑑別することが困難になります。

すると症例の状態を過小評価あるいは過大評価する可能性が生じてしまいます。

画像診断がやりにくい

レントゲンやエコー検査を実施する際に発生する問題です。

食物が消化管に入っていることで病変が検出できない、エコー時にガスが発生して見たい臓器が描出できないなどさまざまな問題が生じます。

(とくに腹部エコー検査の際は、食事をしていると本当に見えない部分が出てくるので苦慮するケースが多いです)

こんな感じです。

絶食に失敗した場合は検査・手術の延期がおすすめ

次に、絶食していないと何が起こるかです。

こちらは単純なのですが、検査や手術を延期する可能性があります。

前述したようなリスク、または正確な評価ができなくなる可能性があるので、日を改めて絶食の条件が整ったタイミングで再度実施をお願いします。

ワンちゃん・ネコちゃんにとっては動物病院に来るだけでストレスがかかるので、可能な限り来院の頻度を減らすためにも、指示された条件下で受診していただけるようお願いします。

いかがでしょうか。

今回は絶食をする意味と重要性についてお話しました。

朝起きて、ごはん!と要求されるとついつい忘れて食事を与えてしまいがちです。

しかし、適切な検査・処置を行うため、そして何よりリスクを回避するためにも絶食指示が出ている時は忘れずにお願いします。

文責:獣医師 小川

みなさま、こんにちは。

今回は猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)のお話をしていこうと思います。

まずはFVRとはなんでしょうか。

猫がヘルペスウイルスに感染した際に結膜炎や鼻炎を主体とする上部気道炎が典型的に認められます。

このことからヘルペスウイルス感染に起因する上部気道炎をFVRと呼んでいます。

このFVRという病気ですが、野良猫を保護した際にとても頻繁に遭遇します。

そして、このヘルペスウイルスというのはとても厄介な性質を持っています。

それは、一旦症状が治っても神経に潜伏感染し続け、生涯に渡り再発症する可能性があるのです。

ヒトでは帯状疱疹を起こすウイルスとして知られていますね。

次にこの病気の診断についてですが、確実な方法はウイルスの分離やPCR検査が挙げられます。

これは、鼻汁や口腔の拭い液を検査センターに提出し血清学的診断やPCR検査でウイルスの感染の有無を確定させるというものです。

ただし、全症例にこの検査を実施するわけではありません。

むしろ僕は滅多に行いません。

その子の飼育形態や経緯を伺い、身体検査を実施した臨床診断を元に治療を開始します。

そして、治療反応が得られない場合にはじめてウイルス検査や他の要因の鑑別を行なうことが多いです。

理由は2つあります。

・検査結果が出るまで待っていられない症例が多い
・ウイルス検査の結果が必ずしも確定診断にならない

1つ目は特に子猫でFVRを疑うケースでは呼吸器症状の悪化は全身状態の悪化に直結するので、暫定診断を元に即治療を開始します。

2つ目は、ウイルス検査の結果はあくまでもウイルスの存在を証明しているだけなので、それが症状を起こしていることを証明することはできません。

常に臨床症状とあわせて評価することが必要なので、FVRについてはウイルス検査を第一選択に考えてはいません。

最後に治療の話です。

前述したようにヘルペスウイルスは生涯に渡り潜伏感染を続けます。

よって、治療は対症療法が中心になります。

軽度の症例では結膜炎や鼻炎に対して点眼・点鼻を中心にした治療から始めます。

呼吸器症状が重度の症例では抗ウイルス薬やインターフェロン製剤の全身投与を行ない、より積極的な治療を実施します。

一旦、急性発症期を離脱した場合は治療を終了し経過観察をします。

しかし、多くのケースでストレス状態に置かれた際や他の疾患により一般状態が悪化した際に再発症を起こします。

(僕がよく経験するのは手術後の再発症です)

この場合も初発の時と同様に対症療法を実施し、症状が消失するまで治療します。

今回は猫のFVRのお話をしました。

子猫を保護して来院してくださった方にこのお話を毎回のようにしています。

呼吸器症状が重篤なケースだと治療が長期間に渡ることもあり、侮れない病気です。

ただし、多くの症例はご自宅での献身的なケアで状態が良くなり、現在も問題なく成長してくれています。

この病気の性質を理解し、付き合っていくためにも飼い主さんに情報共有することが重要であると考えています。

子猫を保護した際に、特徴的な結膜炎や目脂、鼻汁、くしゃみなどの症状がある場合はFVRの疑いがあります。

このような状況になった場合、一度診察を受けてみてください。

文責:獣医師 小川