みなさま、こんにちは。
今回は強制給餌と栄養管理についてのお話をしていきたいと思います。
強制給餌ってなに?
まずは強制給餌とは何でしょう?
強制給餌とは、自発的に食事を取ることができないorしない子に対して人間が手を動かして食事を取らせることです。
『強制』という言葉のイメージがあまり良くないので強制給餌と言うと、無理やり口を開けて食事を食べさせるイメージを持たれる方が多いです。
しかし、人間も動物も食事を取らなければ衰弱し、死んでしまいます。
特に病気を抱えて食事が取りにくくなっているワンちゃん・ネコちゃんは自発的に食べることを促しても食べてくれません。
病気の治療をしていく上で栄養管理は重要な要素の一つです。
薬を投与して病気と闘うことも治療の側面の一つです。
しかし、それだけでは不十分です。
病気と戦っている時に適切な栄養が体に供給されなければ動物は弱っていき、病気と闘うことなどできなくなります。
自発的に食べられないのであれば飼い主さんに手を動かしてもらい食べさせていただく必要があります。
ワンちゃん・ネコちゃんの強制給餌のやり方は?
では強制給餌はどのように実施するのでしょうか。
僕たちが強制給餌を行う際に用いるのはシリンジと液体、または液状にしたフードです。
リキッド食の場合はそのままシリンジに吸ってゆっくり口に入れて食べさせます。
病気の治療のために特定のフードを使用する必要がある場合は、ドライフードもしくはウェットフードをミキサーにかけて液状にしたものをシリンジに吸って与えます。
強制給餌の際に気を付けたいポイント
いずれの場合でも注意すべきポイントがあります。
1つは口に入れる量とスピードです。
食べさせたい、という気持ちは重要ですが一度に入れる量が多すぎたり入れるのが速すぎるとうまく飲み込めず、誤嚥してしまう可能性があります。
口や喉の動きを見ながら嚥下のスピードに合わせて与えるのが重要です。
2つ目は怪我をしないように注意することです。
ワンちゃんやネコちゃんは強制給餌をする際に程度の差はあれど、抵抗感を示します。
徐々に慣れてくれる子が多いのですが、中には噛み付いたりシリンジを破壊してしまう子もいます。
また、シリンジの操作を誤ると歯肉や口腔内を傷つける場合もあります。
特に口に痛みを抱えている子に対して強制給餌をする際、痛みを与えてしまうと、それ以降給餌を非常に嫌がるケースがあるので注意すべきポイントです。
ワンちゃん・ネコちゃんの強制給餌が難しい場合の対処法は?
このように強制給餌を実施するのですが、それでも食べさせるのが困難な場合はチューブの設置を提案します。
チューブの設置には次のようなものがあります。
①経鼻チューブ
②経食道チューブ
③胃瘻チューブ
経鼻チューブ
①の経鼻チューブについては覚醒下で設置ができることが最大のメリットです。
しかし、鼻から入れられるチューブは細いため、基本的に液体しかチューブから送り込むことができません。
さらに、嘔吐やくしゃみ、チューブを嫌がるなどで比較的簡単に抜けてしまいます。
抜けてしまった場合は再設置が必要になります。
また、抜けずに扱えていても1週間ほどで交換する必要があります。
よって、経鼻チューブは短期間設置し、その後チューブを使わなくて良くなることが想定されるケースに選択されます。
経胃道チューブ
②の経胃道チューブについては、麻酔下で食道にチューブを設置し頸部から先端を出して管理する方法です。
①に比べると太いチューブを入れられるので、送り込めるもののバリエーションは広くなります。
また、頸部から先に設置しているのでくしゃみ等の呼吸器のトラブルによる影響は受けません。
しかし、嘔吐によりチューブを吐き出してしまった場合は再設置する必要があります。
経鼻チューブに比べると長く設置しておくことができるので中〜長期にチューブを使用することが想定される際に選択されます。
胃瘻チューブ
③については麻酔下で内視鏡を用いて、直接胃にチューブを設置し腹部皮膚から先端を出して管理する方法です。
最も太いチューブを設置するので、送り込めるもののバリエーションはさらに増えます。
長期使用を想定した方法なので設置部位周囲の皮膚のケアやチューブ自体のケアをすれば年単位で連続使用が可能です。
口腔腫瘍などで生涯に渡りチューブフィーディングが必要、または投薬が必須であると判断した際に選択されます。
ワンちゃん・ネコちゃんにチューブの設置はかわいそう?
チューブの設置についてはそれぞれにメリットとデメリットがあり、どれを選択すべきかは飼い主さんと相談して決めていきます。
また、チューブを設置した姿は可哀想とおっしゃる飼い主さんもいます。
確かに自発的に食事が取れずチューブを設置した姿は、はつらつとはしていないかもしれないです。
しかし、前述したように食べてくれないのなら食べさせて栄養を供給する必要があります。
ここが僕たち獣医師と飼い主さんとで最も意識のズレを感じるポイントです。
僕は、強制給餌やチューブの設置を飼い主さんに提案する際、その必要性や実際に設置した症例の写真をお見せしてイメージしていただくことで少しでも抵抗感を減らせるようにしています。
いかがでしょうか。
今回は強制給餌と栄養管理についてのお話をしました。
病気の治療を考える際、どうしても投薬に意識が集中しがちですが、同じくらい栄養管理は重要な因子の一つです。
強制給餌やチューブ設置について不安や詳しく知りたい方がいらっしゃればいつでも質問してみてください。
文責:獣医師 小川