ワンちゃんにも認知症がある?

みなさま、こんにちは。
今回は老齢犬の認知機能障害についてお話ししようと思います。
みなさんは認知症と聞くとどんなイメージをお持ちでしょうか?

・徘徊して迷子になる
・食事をした直後なのに食事を要求する
・粗相をしてしまう
・よく知っている人を認識できない

などが挙がるかと思います。

実は、ワンちゃんも認知機能障害を発症し上記のような症状を引き起こすことがあります。
しかし、老齢犬は認知機能障害以外にもさまざまな疾患を引き起こす可能性があるため、ご自宅で見ているだけでは判断に困るケースが多いかと思います。
そこで、認知機能障害を診断するポイント、さらに治療する際に僕が重要視しているポイントを挙げて解説していきます。

僕たちが認知機能障害を診断する際は、前述の臨床症状や行動の変化を聴取しその他の疾患との鑑別を行なっていきます。
その際に、次のような診断基準方法を用いることが多いです。

犬痴呆の診断基準法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※犬痴呆の診断基準 内野式100点法

この診断基準を元に認知機能障害が疑わしいのか、他の疾患の鑑別を進めるべきなのか判断していきます。

次に、治療についてです。
現在のところ、残念ながら認知機能障害に対する決定的な治療法はありません。
よって、治療の目的は病態の進行をなるべく遅らせることと、ワンちゃんと飼い主さんのQOLを維持・向上させることになります。
そのために、以下のような方法を組み合わせ、何を行なっていくかを飼い主さんと相談して決定していきます。

①行動療法
僕はこれが最も重要だと考えており、飼い主さんに最も取り組んで欲しい項目です。
実際に行うことは次の3つから始めます。

⑴叱責しない
前述したように、認知機能障害のワンちゃんは徘徊したり、不適切な排尿をしてしまいます。
ただし、これはわざと行なっているわけではありません。
つまり、それに対し叱責しても行動が改善されることはなく逆にストレスを与えることで認知機能障害の症状がより強く現れる悪循環に陥ります。
まずは、決して叱責しないことが重要です。

⑵生活環境の改善
認知機能障害のワンちゃんは徘徊したり、同じところをぐるぐる旋回したりという行動を示す場合があります。
その際に、転んだり目線の高さにあるものにぶつかるようならば滑り止めや緩衝材を使ってあげてください。
また、頻繁に家具の配置移動を行うとワンちゃんが混乱し不安が増える可能性があるため、模様替えやトイレの位置移動はなるべく控えてあげてください。
最後に、きちんとトイレができた時などは目一杯褒めてあげてください
同時にご褒美としてオヤツを与えるのも効果的です。

⑶心身への刺激を与える
体も精神も使わないと、ますます動かなくなってしまいます
体への刺激は、お散歩にいくのが好きな子ならば無理のない範囲でお散歩をさせてあげてください。
頭(脳)への刺激はパズルフィーダーや知育トイなどのツールを利用すると良いです。
特にオヤツを用いたパズルフィーダーは自作することも可能で、飼い主さんと触れ合う機会にもなるので積極的に導入を勧めています。

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KONG®︎

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Busy Buddy®︎のTwist’n Treat™️およびDumbbell

 

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ペットボトルを利用したパズルフィーダー

 

※緑書房『犬と猫の神経病学各論編』より引用

 

②栄養療法
認知機能障害のわんちゃんに対して次のような栄養素を取り入れることが重要視されています。
・ビタミンE
・ビタミンC
・セレニウム
・L-カルニチン
・ω3不飽和脂肪酸(DHAやEPA)
これらが組み込まれたフードやサプリメントの使用を組み合わせてコントロールする場合も多いです。
フードやサプリメント使用に関しては獣医師とご相談ください。

③薬剤療法
繰り返しになりますが、認知機能障害の根本的な治療方法は未だに確立されていません。
よって、薬物療法の目的は問題行動によって飼い主さんとワンちゃんのQOLが低下すると判断した際に、それを維持・向上することに限定されます。
こちらに関しては、行動療法や栄養療法をすでに実施しているが改善が認められない時に考慮する方法です。
僕は、初めから薬物療法のみを行うのではなく、前述した2つを先に実施あるいは同時に行なうことを飼い主さんにお話ししています。

いかがでしょうか。
認知機能障害は治療という側面とケアという側面を併せ持った病気です。
時に根気よく行動療法や環境の改善を続け、ゆっくりワンちゃんと向き合う必要があります。
認知機能障害の治療では、飼い主さんとチームになり、飼い主さんが治療を担う一員であることを認識していただくのがとても重要だと考えています。

今回のお話が、認知機能障害のワンちゃんとすでに向き合っている飼い主さんや、将来的にケアが必要となる方々にとって参考になれば幸いです。

文責:獣医師 小川