みなさま、こんにちは。
今回は腫瘍、とくに体表面にできる腫瘍のお話をしたいと思います。
体表面にできる腫瘤(しこり)は飼い主さんが最も気付きやすい病変の一つです。
実際に診察をしていても、
『少し前からしこりがあるんです。これ何ですか?』
この質問をよく耳にします。
ワンちゃん、ネコちゃんを普段からよく触り観察してらっしゃる飼い主さんは、僕たちが驚くほど小さな腫瘤もみつけて教えてくれます。
頭が下がります。
では、『これ何ですか?』についてお話ししていきます。
結論から申し上げると、その場で『これは〇〇です。』と断定することは不可能です。
僕たちは飼い主さんが気づいた、もしくは診察中に体表腫瘤を見つけた場合、次のような思考回路で診断を進めていきます。
①腫瘤がいつから存在していたか
②腫瘤がどこに存在しているか
③腫瘤に気づいてから現在まででサイズや数の変化があったか
④腫瘤はどんな細胞で構成されているか
①〜③までについて飼い主さんからお話をお伺いし、どんな病変の可能性があるかを考えます。
そして、悪性の病変を疑う際に④へ進みます。
④を調べる際、『生検』という手段を用います。
生検とは、なんらかの方法で病変を構成する細胞や組織を採取し調べる方法です。
特に、体表腫瘤の場合は細い針で病変を刺し細胞を集める針生検、そして集めてきた細胞を評価する細胞診という診断方法をよく用います。
細胞診の結果を基に、悪性腫瘍の可能性が高い場合は腫瘍自体の性状、局所での広がり、遠隔転移の有無、全身状態の評価へと進み治療方法を検討します。
このお話を踏まえた上で、実際に診察室でどのような流れで進むかを記してみたいと思います。
「うちのワンちゃんの背中にしこりがあるんです。」
『このしこり、いつ気づかれました?』
「2週間くらい前に触っていたら気付きました。」
『なるほど。では、2週間前に比べて大きくなっていたり、掻いたりなど変化はありますか?』
「とくに自分では気にしていなくて、大きさも変わっていないように思います。」
『分かりました。今のところしこりが急激に大きくなったり、本人が気にしたりという変化はなさそうですね。
このしこりがどんな細胞で出来ているかを調べるには細い針で刺して細胞を集める細胞診という検査法が必要になります。
この検査を行なって、その結果を基に今後の治療方針を検討していきましょうか。』
「お願いします。」
こんな感じです。
もちろん、この段階で細胞診を行わないケースもあれば、細胞診ではなく組織生検という手法を提示することもあります。
いずれにしても、もっとも大切なことは、しこりに気づいたらなるべく早く獣医師に相談していただきたいということです。
体表腫瘍の中には早期発見・早期治療することによって治療成績が格段に良くなるものも含まれています。
そうしたものをなるべく早く治療する、あるいは様子を見て大きくしてしまわないことが重要になってきます。
今回は腫瘍の中でも飼い主さんが気付きやすい体表腫瘤のお話をしました。
皆さんもワンちゃん、ネコちゃんを触ってしこりや病変にお気づきの方は一度ご相談してください。
文責:獣医師 小川