猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)について

みなさま、こんにちは。

今回は猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)のお話をしていこうと思います。

まずはFVRとはなんでしょうか。

猫がヘルペスウイルスに感染した際に結膜炎や鼻炎を主体とする上部気道炎が典型的に認められます。

このことからヘルペスウイルス感染に起因する上部気道炎をFVRと呼んでいます。

このFVRという病気ですが、野良猫を保護した際にとても頻繁に遭遇します。

そして、このヘルペスウイルスというのはとても厄介な性質を持っています。

それは、一旦症状が治っても神経に潜伏感染し続け、生涯に渡り再発症する可能性があるのです。

ヒトでは帯状疱疹を起こすウイルスとして知られていますね。

次にこの病気の診断についてですが、確実な方法はウイルスの分離やPCR検査が挙げられます。

これは、鼻汁や口腔の拭い液を検査センターに提出し血清学的診断やPCR検査でウイルスの感染の有無を確定させるというものです。

ただし、全症例にこの検査を実施するわけではありません。

むしろ僕は滅多に行いません。

その子の飼育形態や経緯を伺い、身体検査を実施した臨床診断を元に治療を開始します。

そして、治療反応が得られない場合にはじめてウイルス検査や他の要因の鑑別を行なうことが多いです。

理由は2つあります。

・検査結果が出るまで待っていられない症例が多い
・ウイルス検査の結果が必ずしも確定診断にならない

1つ目は特に子猫でFVRを疑うケースでは呼吸器症状の悪化は全身状態の悪化に直結するので、暫定診断を元に即治療を開始します。

2つ目は、ウイルス検査の結果はあくまでもウイルスの存在を証明しているだけなので、それが症状を起こしていることを証明することはできません。

常に臨床症状とあわせて評価することが必要なので、FVRについてはウイルス検査を第一選択に考えてはいません。

最後に治療の話です。

前述したようにヘルペスウイルスは生涯に渡り潜伏感染を続けます。

よって、治療は対症療法が中心になります。

軽度の症例では結膜炎や鼻炎に対して点眼・点鼻を中心にした治療から始めます。

呼吸器症状が重度の症例では抗ウイルス薬やインターフェロン製剤の全身投与を行ない、より積極的な治療を実施します。

一旦、急性発症期を離脱した場合は治療を終了し経過観察をします。

しかし、多くのケースでストレス状態に置かれた際や他の疾患により一般状態が悪化した際に再発症を起こします。

(僕がよく経験するのは手術後の再発症です)

この場合も初発の時と同様に対症療法を実施し、症状が消失するまで治療します。

今回は猫のFVRのお話をしました。

子猫を保護して来院してくださった方にこのお話を毎回のようにしています。

呼吸器症状が重篤なケースだと治療が長期間に渡ることもあり、侮れない病気です。

ただし、多くの症例はご自宅での献身的なケアで状態が良くなり、現在も問題なく成長してくれています。

この病気の性質を理解し、付き合っていくためにも飼い主さんに情報共有することが重要であると考えています。

子猫を保護した際に、特徴的な結膜炎や目脂、鼻汁、くしゃみなどの症状がある場合はFVRの疑いがあります。

このような状況になった場合、一度診察を受けてみてください。

文責:獣医師 小川