みなさま、こんにちは。
今回は猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症についてお話していきます。
猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症はどんな病気?
FIVは猫に感染して免疫不全症を引き起こす可能性のあるレトロウイルスです。
感染ルートは、主にFIVを保有するネコに噛まれた際に唾液や血液を介して伝播します。
つまり、完全室内飼育のネコでは感染リスクが低く、逆に外出するネコの場合は感染リスクが高くなると考えられます。
ネコがFIVに感染した際、次のような病態を辿ります。
①急性期
感染直後の数日間。発熱、食欲不振、リンパ節腫脹などがみられます。
ただし飼い主さんが気づかないケースがほとんどなので、このステージの猫を診察する機会がごく稀です。
②無症候性キャリアー期
急性期を経てウイルス血症が抑制された後、数年間は無症候で経過します。
そのままウイルスの複製が免疫によって持続的に抑制された場合、無症候のまま寿命を全うすることもあります。
③全身性リンパ節腫大期
全身のリンパ節腫大がみられることが多いです。
ただし、これも目立たないケースがあるため飼い主さんが気づかないことがあります。
④エイズ関連症候群期
口内炎・歯肉炎・上部気道炎・反復性細菌感染症・外部寄生虫感染症など免疫異常に伴う症状が現れ出します。
特に口内炎は難治性で強い痛みを伴うケースが多く、食欲低下や体重減少を起こしてしまう場合があります。
⑤後天性免疫不全症候群期
FIV感染症の末期で、さまざまな日和見感染症(通常の免疫力があれば感染しないような病原体に感染してしまうことです)や貧血、白血球減少症、腫瘍など免疫不全によって発生する症状が認められます。
猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症はどうやって調べるの?
次に、FIVの診断についてです。
診断は主に抗体検査キットを用いて実施します。当院で取り扱っている検査キットでは即時検査が可能です。(10分程度)
検査対象は、FIV感染を疑う症状を認めるネコ、これから飼い始める予定のネコ、野良猫との接触を疑うネコなどです。
ただし、FIV感染から抗体が作られてキットで検出できるようになるまでには2〜3ヶ月ほどのタイムラグが生じます。
また、母猫がFIVキャリアーである子猫の場合、移行抗体というお母さんからもらう抗体の影響で偽陽性が出ることがあります。
そのネコが本当にFIV感染しているのか正しく評価するためには適切なタイミングあるいは複数回の検査が必要となります。
猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症の予防や治療は?
次は予防と治療についてです。
FIV感染予防は、
ネコを完全屋内飼育にして外に出さない
これに尽きます。
主な感染ルートがFIV陽性猫による咬傷なので、そもそも接触する機会がなければ感染する心配はありません。
また、他のウイルス疾患、外傷、長期低栄養による肝リピドーシス、交通事故など飼い猫が外出することによって発生するリスクは数え切れません。
これらを予防するためにも完全屋内飼育を強く勧めます。
猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症は根治が難しい
また、治療についてですが残念ながらFIVは一度発症してしまうと根治させる治療方法が確立されていません。
主な治療は、口内炎や上部気道炎などに対するステロイドを用いる方法や、反復する細菌感染に対して抗生剤を適宜使用する対症療法になります。
猫インターフェロンωの投与で生存期間が延長した報告もあるので、飼い主さんと情報共有しながら対症療法に何を組み込むか決定していきます。
いかがでしょうか。
今回はFIV感染症についてのお話をさせていただきました。
感染していない子は完全屋内飼育を徹底することで感染を回避することができます。
また、すでに感染している子も無症状のまま寿命を全うしてくれることもあります。
ただし、発症してステージが進むと目に見えてQOLが下がっていきます。
感染しないためにできることを徹底する。
万が一、感染してしまった場合はその時その子が置かれている状態に応じて必要な対症療法を積極的に行なうことでQOLを保った生活を送ることができます。
今回のお話がFIV感染症という病気を理解するための参考になれば幸いです。
文責:獣医師 小川