みなさま、こんにちは。
今回はワンちゃん・ネコちゃんの避妊手術を実施することで得られるメリットと発生するリスクについて解説していきます。
ワンちゃんが避妊手術を受けるメリット・デメリット
前回、去勢手術についてのお話をさせていただいたのですが、避妊手術についてのご相談も受けることが非常に多いです。
そもそも避妊手術ってなに?
まずは避妊手術という言葉の定義からお話します。
今回のお話では、
このように定義しています。
(※理由はこの後登場します)
ワンちゃんが避妊手術を受けるメリット
では、まずはワンちゃんのお話からです。
ワンちゃんが避妊手術を実施することで得られるメリットは次のようなものが挙げられます。
①不適切な妊娠を回避できる
②発情周期に依存した体調の変動が消失し子宮・卵巣疾患の予防ができる
③早期に避妊手術を実施することで乳腺腫瘍の発生リスクが軽減できる
②については、子宮卵巣切除を実施するので子宮卵巣疾患の発生を防ぐことができます。
同時に、卵巣から分泌されるホルモンの影響が消失するので発情に関連する体調不良も消失します。
③については以下のような論文(https://academic.oup.com/jnci/article-abstract/43/6/1249/910225)が発表されています。
『避妊手術を実施するタイミングと未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率がどうなるか
・初回発情までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が0.5%に減少
・初回〜2回目までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が8%に減少
・2回目以降に実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が26%に減少』
避妊手術を実施すれば100%乳腺腫瘍の発生を予防できるわけではありません。
しかし、未避妊犬と比較して明らかに発生率に差があることが報告されているため、僕は2回目の発情までに避妊手術を実施することを勧めます。
また、この論文で行われている術式が子宮卵巣切除術であるため、冒頭で述べたように
「避妊手術=子宮卵巣切除術」と定義しています。
ワンちゃんが避妊手術を受けるデメリット
では、避妊手術を行なう上で予想されるデメリットはどんなものがあるでしょうか。
①全身麻酔をかける必要がある
②術後の増体重が発生する可能性がある
①については去勢手術のお話でも述べた通り、個別に麻酔のリスクを判定した上で術前に飼い主さんにお伝えします。
②についても同様に、術後ご飯の量が同じでも体重が増えてしまう子がいます。
特に、避妊手術後の子が最も多い印象があるため、体重過多になった場合は適切な減量の指導を行ないます。
ネコちゃんが避妊手術を受けるメリット・デメリット
次はネコちゃんのお話です。
ネコちゃんが避妊手術を受けるメリット
ネコちゃんに避妊手術を実施することで得られるメリットは次のようなものがあります。
①不適切な妊娠が避けられる
②子宮・卵巣疾患の発生予防ができる
③早期に避妊手術を実施することで乳腺腫瘍の発生率を下げることができる
①、②についてはワンちゃんと同様です。
③については、特にネコちゃんで非常に重要です。
猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性腫瘍であり、どこかに1つでも腫瘍があると片側乳腺の全摘出術が推奨される極めて厄介な疾患です。
猫においても次のような論文が報告されています。
『避妊手術を実施するタイミングと未避妊猫と比較した乳腺腫瘍発生リスク減少率
・生後6ヶ月齢までに実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率91%
・7〜12ヶ月齢で実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率86%
・13〜24ヶ月齢で実施:未避妊猫と比較して乳腺腫瘍発生リスク減少率11%』
(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1939-1676.2005.tb02727.x?sid=nlm%3Apubmed)
ワンちゃんと同様、避妊手術を実施していれば100%乳腺腫瘍の発生を予防できるわけではありません。
しかし、前述したようにネコちゃんの乳腺腫瘍はほとんどが悪性であることと、早期の避妊手術実施で発生リスクを減らせる可能性があるため、僕は生後1年までで避妊手術実施を勧めます。
ネコちゃんが避妊手術を受けるデメリット
では、避妊手術を行なう上で予想されるデメリットはどんなものがあるでしょうか。
①全身麻酔をかける必要がある
②術後の増体重が発生する可能性がある
こちらはワンちゃんと全く同じです。
ただし、②についてはネコちゃんの方がよりコントロールが難しい場合が多いため注意が必要です。
いかがでしょうか。
前回と今回に渡り、去勢手術と避妊手術についてのお話をさせていただきました。
飼い主さんの関心が高い話題なのですが、疾患との関連(特に乳腺腫瘍)についてはまだまだ周知されていない印象を受けます。
今回のお話が疾患の予防に結びついてくれれば幸いです。
文責:獣医師 小川