みなさま、こんにちは。
今回は問題行動のうちご相談を受けることが多い、関心を求める行動について解説していきたいと思います。
ワンちゃん・ネコちゃんの関心を求める行動ってなに?
まずは、関心を求める行動とは具体的にどのような行動なのでしょうか。
その名の通り、飼い主さんの関心を得ようとするための行動で以下のようなものが挙げられます。
・鳴く
・前肢で叩く
・うろうろ動き回る
・掘る
・後追いする
・過剰に目で追う
・警戒する
・突進する
・物を盗んだりねだったりしてクンクン鳴く
・歯を立てて噛む
特徴としては、上記のような行動を示した直後あるいは最中に、飼い主さんが反応を示すことでますます行動が強化されていくことです。
関心を求める行動はなぜ起こるの?
次に診断です。
まずは他に身体的疾患がないか鑑別を行ないます。
身体的疾患がないならば、常同障害を含む他の行動学上の問題との鑑別を進めます。
過度なグルーミングや尻尾追いなど、ストレス等が原因で発現する症状。
今回の記事で紹介している「関心を求める行動」としばしば同じ行動がみられる場合が多い。
特に常同障害は行動が類似することがあるので紛らわしいのですが、以下のポイントで鑑別を行ないます。
①犬だけにした場合、問題となる行動が発現しない。常同障害であれば犬だけにしても行動が発現する。
→定点カメラなどで観察が可能であれば診断の補助になります。
②飼い主さんが関心を示すことで問題となる行動発現の可能性が増大する。
→常同障害であれば飼い主さんの反応や対応に関係なく行動が発現し続けます。
ワンちゃん・ネコちゃんの関心を求める行動の治療法は?
いよいよ治療方針です。
治療のメインを担うのが行動修正法という方法です。
これは飼い主さんとその子の日頃の関わり方を詳しく聴取し、問題行動の発現・強化につながる因子を排除・修正するというものです。
つまり、僕たち獣医師は話を聞いてプランを指示し改善が得られたかを伺うだけで、治療の主役は飼い主さんであるというのが最大のポイントです。
具体的には以下のような物を提案していきます。
①刺激制御
問題行動を引き起こすきっかけとなる刺激がある場合、積極的に排除していきます。
例:飼い主さんがおかしを食べると前肢で叩く行動が発現する。
→ワンちゃんの目の前でおかしを食べないようにする。
②正の強化子の排除
問題行動に対して正の強化子(行動を強めてしまう反応となる因子)になる物を排除していきます。
例:吠えて関心を求めるワンちゃんに対し、見ない・声をかけない・部屋から出る、という対応をする。
→ここで「ダメ」と声をかけたり、押し退ける行動を飼い主さんが行なうと、反応してもらえたという正の強化子として認識されてしまう。
この方法は、関心を求められている対象である方以外のご家族も注意する必要があります。
つまり、他の飼い主さんがこの状況でワンちゃんに声をかけたり、かまってしまうと正の強化子として認識され行動が強化されてしまうからです。
これは治療開始前に必ず飼い主さんにお伝えし、ご家族やワンちゃんと触れ合う可能性のある方と情報共有することの重要性を認識していただいています。
③負の罰の使用
まず大前提として、叱責・叩くなどの罰の使用は心身ともにダメージを与える可能性が高いので絶対に行ないません。
加えて、前述した通り叱責等は正の強化子にもなり得るので、行動を強化する可能性があり、行うべきではありません。
では、何が負の罰になるでしょうか?
この場合は「楽しいことが取り去られる」という状況を負の罰として使用できます。
例:吠えて関心を引こうとしたら、飼い主さんが別の部屋に行ってしまう。
→ワンちゃんが行動を示すことで望ましくない結果が生じるために、行動の減少が期待できます。
この場合も気をつけるのが、反応を見せないことです。
吠えたら飼い主さんにかまってもらえず、いなくなってしまうという状況を作り出すことで行動を修正していきます。
④飼い主さんとの関係の再構築
飼い主さんとワンちゃんがいつ、どのようにしてかかわるかのルール決めです。
以下のようなルールを飼い主さんと相談しながら決定していきます。
・かかわる際は常に飼い主さんがワンちゃんの気を引くことから開始し、終了も飼い主さんが行なう。
→ワンちゃんが要求して遊ぶという状況を作らないようにします。
・飼い主さんはワンちゃんが静かに落ち着いているときにだけ関心を向ける。
→静かにしていないと関心を向けてもらえないことを学習させます。
また、飼い主さんが関心を向ける条件として、お座りなどの課題をこなす等を設定するのも効果的です。
・遊ぶ時間を決める。
→毎日の遊びの時間を決めることで、その時間を待つ・日課が完了すると満足感を得るようになることを期待します。
ただし、これは飼い主さんの生活リズムもあるので適用できるかを初めに話し合います。
もう一つの治療法としての薬物療法
最後に、薬物療法についてです。
僕は、他の問題行動を併発していない限り薬剤は使用しません。
逆に、薬剤が必要なほど問題行動が改善しないのであれば診断を見直す必要があると考えます。
いかがでしょうか?
今回のお話は、日頃の診察時によく相談を受けます。
多くの飼い主さんが叱責等で、行動を強化してしまっている印象を受けるので詳細にお話させていただきました。
問題行動の行動修正は飼い主さんが手を動かしてもらう場面が大半なので、飼い主さんが治療の主役である意識を持って取り組んでいただけると幸いです。
文責:獣医師 小川