みなさま、こんにちは。
今回は腫瘍についてのお話をしたいと思います。
ただし、テーマが広すぎるので、概要に絞ってなるべくわかりやすくお話しできたら、と思っています。
そもそも腫瘍ってなに?
まずは言葉の定義からです。
腫瘍とは、自らの組織が由来となった細胞が、無秩序・無目的に無限に増殖してしまう状態のことを指します。
この腫瘍のうち、悪性腫瘍全般を『癌(がん)』と呼びます。
悪性の腫瘍は癌・肉腫等と呼ばれる
悪性腫瘍のうち、上皮系細胞由来の悪性腫瘍を『癌』、間葉系細胞由来の悪性腫瘍を『肉腫』と呼びます。
その他の組織が由来となる悪性腫瘍は、それぞれに個別に名称が付けられています。
腫瘍には良性のものもある
次に、良性腫瘍です。
良性腫瘍の場合、『〇〇腫』という名称が付けられています。
体にできた腫瘍=癌とは限らない
これらの決まりは飼い主さんが正確に把握しておくものではなく、僕たち獣医師が正確に把握し、かつ飼い主さんに誤解を招かないようにお伝えする必要があります。
すなわち、飼い主さんは体表など目につく場所や画像検査の結果、
増殖性病変を見つけた=がん?
と考えてしまう方が多いです。
この段階では、その増殖性病変が何であるのかは僕たちにも分かりません。
よって、診断を付け、治療方針を決めるために必要な検査を提案します。
腫瘍を診断するための検査は?
一言で検査といっても、実にさまざまなものが挙げられます。
どの検査を適用するかは、ケースバイケースなので一概にこの順番で実施するとは言えないのですが、針生検やパンチ生検、切開生検、切除生検などを行ない、診断を付けに行きます。
悪性腫瘍のステージングについて
次にステージングです。
ここが最もややこしいのではないかと考えています。
先述した診断は、増殖性病変がどんな種類なのかを調べることを目的としています。
一方、ステージングとは診断の結果、増殖性病変が悪性であると決まった後に行う検査です。
すなわち、悪性腫瘍がどの程度広がっているのか、悪性腫瘍の存在により体はどんな状態にあるのか、ということを評価していきます。
ステージングにより今後の治療方針を決める
このステージングを行う理由ですが、ずばり治療方針を決定するためです。
例として、ステージが進んでいない、一般状態に問題のない症例ならば根治を狙いに行くような積極的な治療を提案します。
一方、ステージが進んでいる、もしくは一般状態が極めて悪い症例に対しては、緩和治療や対症療法も選択肢に入れてお話します。
このように診断、ステージングを行ってからいよいよ治療に進みます。
悪性腫瘍の治療方法は?
治療は外科療法、放射線療法、化学療法が大きな柱となり、その他に免疫療法や光線力学療法などがあります。
どの治療法を適用するかは、その腫瘍の性質や症例の状態、飼い主さんのご希望を伺った上で決定していきます。
どの治療法にもメリットとリスクがあり、また治療成績も数多く報告されているので、その情報を飼い主さんと共有して慎重に決めていきます。
治療開始前の方針相談が大切
また、治療が進んでいく上で、治療反応が乏しくなってきたり、外貌の変化や生活しづらさ等が発生してくると、飼い主さんと獣医師との間で認識のズレが発生するケースが多々あります。
腫瘍と戦っていく上で、僕が最も重要だと考えているのは、治療開始前の徹底したインフォームです。
獣医師は、腫瘍の性質、選択した治療法によってどのような変化が生じるかを熟知しています。
もちろん、飼い主さんに対してもお伝えはするのですが、治療開始前のインフォーム時に飼い主さんは、自分の子が悪性腫瘍だという事実にショックを受けられており、そのことで頭がいっぱいである方も少なくありません。
そんな状態の飼い主さんに、極めて情報量の多い初回のインフォームを行なっても、お伝えしたいことの半分も伝わらないのではないかと考えています。
『インフォームドコンセント』とは、飼い主さんが病気と治療に対する説明を十分に理解して納得した上で治療を進めていくことを意味します。
よって、インフォームを十分に行なった、という獣医師側の自己満足になってしまっては意味がありません。
これをクリアするために僕たちは、
・診断名をお伝えする日と治療方針を決定する日を別にする
・診察の度に病気のおさらいと飼い主さんの治療に対するモチベーションの変化を伺う
・こうなったらこうしたい、こうなったらこんな風に治療方針を変更したいなどの認識の共 有を行なう
・ご家族間での意志、モチベーションの共有をお願いする
このような事柄を意識してお話するようにしています。
もちろん、このような工夫をしたとしても、飼い主さんの中には治療が進んでいく上で発生する変化にショックを受けてしまう方が少なくありません。
だからこそ、僕たち獣医師は病気と治療について飼い主さんにイメージしてもらえるようにお伝えする努力を欠かしてはならないのです。
いかがでしょうか。
今回は腫瘍についてのお話をしました。
それぞれの検査や治療法については今後、詳しく解説したいと思いますが、今回は概要と腫瘍の治療をする上で最も重要なインフォームドコンセントのお話をしました。
今回のお話が、腫瘍を抱える子の飼い主さんの助けになれば幸いです。
文責:獣医師 小川