みなさま、こんにちは。
今回は会陰(えいん)ヘルニアという病気についてお話したいと思います。
会陰ヘルニアってなに?
まずは言葉の意味から見ていきましょう。
『会陰(えいん)』と言われて、場所のイメージが付くでしょうか?
会陰とは、肛門周囲の領域を指す言葉です。
ここには複数の筋肉が集まっていて、骨盤内腔と外を隔てる役割を果たしています。
ヘルニアってそもそも何?
次にヘルニアという言葉の意味です。
ヘルニアとは構造物や器官が本来あるべき場所から脱出・逸脱してしまう病態を意味します。
ヘルニアと言うと、椎間板ヘルニアのイメージが強いかと思いますが、椎間板ヘルニアの場合は椎間物質が脊髄の方に脱出してしまい脊髄を圧迫して神経障害が起こる、という病気です。
今回のテーマである会陰ヘルニアという病気は、会陰部の筋肉が様々な要因で薄くなり、隙間が生じてしまい、そこから腹腔内の脂肪や腸、膀胱や前立腺などの組織が脱出してしまう病態を意味します。
会陰ヘルニアになるとどうなるの?
続いて、症状です。
会陰ヘルニアは片側あるいは両側同時に発生するケースもあるのですが、最初は無症状であることが少なくありません。
症状で気づくよりも、ヘルニア内容が突出していることに飼い主さんが気づいて受診されることの方が多く、
『お尻にデキモノができているんです。』
と仰る方が多い印象です。
もちろん肛門周囲に腫瘤を形成する病気もあるので鑑別が重要となります。
会陰ヘルニアの場合、用手で内容が腹腔内に返納できるか、直腸検査で直腸の蛇行やヘルニアの有無をチェックし診断していきます。
また、長毛の子だと、肛門周囲の突出に気づかないケースもあり、ヘルニアが進行してしまうことがあります。
この場合、症状として便秘や排便時のいきみが増す、あるいは排尿困難等が認められます。
先述したように会陰ヘルニアでは腸や膀胱・前立腺など様々な臓器が脱出してしまう可能性があり、何がどの程度脱出しているかで症状が変わってきます。
会陰ヘルニアはどうやって治療するの?
続いて、治療です。
外科手術が第一選択
会陰ヘルニア治療の第一選択は外科手術です。
腹腔内では、脱出した臓器を牽引した後に直腸、あるいは前立腺を腹壁に固定します。
そして、会陰部では生じてしまった隙間を小さくする術式を行ないます。
ここで行う術式は様々なものがあり、ヘルニアの程度や残存している組織の量などによって適用を考えます。
外科手術が危険な場合は緩下剤の使用も
また、基礎疾患やその他の問題で、麻酔のリスクが極めて高い場合は手術を実施できないケースもあります。
その場合は緩下剤等で便を軟化させ、自力での排便をスムーズにし、便秘によって発生する様々な問題を緩和していきます。
ただし、これには限界があり、消化管が脱出して腸閉塞を起こすなど緊急手術に移行する可能性も十分考えられるため、できる限り手術による治療が望ましいです。
また、会陰ヘルニアは未去勢雄での発生が多いことが知られており、ホルモンとの関連が考えられていますが今のところ詳しくは分かっていません。
しかし、外科手術時に未去勢の症例は、再発予防を目的として同時に去勢手術を提案しています。
去勢手術を実施すると前立腺は縮小するので、ヘルニア部に前立腺が嵌まり込んでしまう事態は回避できるのでは、と考えています。
会陰ヘルニアって再発するの?
会陰ヘルニアは手術により改善が得られますが、再発の可能性があります。
特に、重度の両側性会陰ヘルニアの場合、会陰部の修復をしたとしても残存する筋肉や組織の量が極めて少ないので、修復に用いた糸や器具が経年劣化することで再度ヘルニアを起こしてしまうのです。
その際は、再度手術を実施するか否かを飼い主さんとお話し合いして決定していきます。
いかがでしょうか?
今回は会陰ヘルニアのお話をしました。
僕たち獣医師にとってはポピュラーでイメージしやすい病気なのですが、飼い主さんにとっては言葉からイメージが湧きにくいのかな、と考えています。
今回のお話で、病気に対するイメージを持っていただき早期発見に繋がってくれると幸いです。
文責:獣医師 小川