みなさま、こんにちは。
今回は猫の肝リピドーシスについてお話します。
肝リピドーシスってなに?
肝リピドーシスとは、肝細胞への過剰な脂肪蓄積により肝機能障害が生じる病気です。
ヒト、ネコ、ウシ、ブタでよくみられ、猫の急性肝障害では最も多い病気として知られています。
肝リピドーシスは、様々なケースがありますが、
『肥満猫が食べなくなった時』にもっともよく遭遇します。
肝リピドーシスの発生メカニズム
まずは肝リピドーシスが発生するメカニズムについてです。
普段、どんな動物も食事を食べ、消化・吸収・代謝することでエネルギーを得ています。
ところが、何らかの理由でエネルギー摂取量が低下してしまうと、体は体脂肪を分解してエネルギー源として利用します。
この時、分解された体脂肪は遊離脂肪酸として肝臓に運ばれ代謝されるのですが、肝臓での代謝量以上に遊離脂肪酸が運ばれてしまうと肝臓へ過剰に脂肪蓄積が生じ、肝リピドーシスを発症します。
ネコちゃんの肝リピドーシスの症状は?
肝リピドーシスを発症した時にみられる症状は、次のようなものが挙げられます。
・元気・食欲廃絶
・重度の体重減少
・黄疸
・嘔吐
・脱水
・肝性脳症
etc…
とくに、上2つは必ずと言っていいほどみられるので、元気がなくて食べなくて痩せてきている猫をみると肝リピドーシスが頭をよぎります。
肝リピドーシスには、胆管炎・膵炎・炎症性腸疾患・腫瘍・糖尿病・甲状腺機能亢進症などの基礎疾患に続発して起こる二次性肝リピドーシスと、基礎疾患が明らかではない特発性肝リピドーシスがあります。
基礎疾患がある場合、肝リピドーシスの管理に加えて基礎疾患の治療も並行して行う必要があります。
ネコちゃんの肝リピドーシスの治療
では、治療についてです。
肝リピドーシスの治療の中心は、十分なタンパク質を含んだ栄養補給です。
ただし、治療初期には全身状態が著しく悪いケースが多く、治療が進むにつれて合併症を生じる可能性も高いため、入院下で全身的な支持療法を行います。
具体的には下記を組み合わせ、血液検査でのモニタリングをしながら治療を進めます。
①輸液療法
嘔吐や食欲廃絶で脱水、電解質異常を起こしているケースが多いため、まず最初に行います。
また、血液検査でモニタリングを続け、変動がみられるものについては適宜補正をかけていきます。
特に、強制給餌を開始した後に急激なインスリン分泌によりリフィーディング症候群が発生する可能性を十分に考えながら補正をかけていきます。
②栄養補給
肝リピドーシス治療の中心を担う治療ですが、多くの場合、自発的に食事を食べてはくれません。
入院下で肝リピドーシスの治療を行う際、経鼻食道チューブの設置は必須です。
ただし、これはあくまで状態が安定するまでの繋ぎでしかありません。
全身麻酔がかけられるコンディションになったら食道チューブもしくは胃瘻チューブを設置すると、長期使用が可能であること、栄養補給や投薬が容易になることなどのメリットがあり、猫にも飼い主さんにとってもストレス軽減が期待できます。
③薬物療法
基本的に発生している症状に対して使用する薬剤を選択するのですが、嘔吐を起こしているケースが多いので制吐薬は積極的に使用します。
その他は、肝保護剤やビタミンの投与をするケースもあります。
これらの治療を行い、退院して自宅での治療に切り替えるのですが、退院の目安として僕が基準にしているのは次の項目です。
・猫が元気になっている
・血液検査でビリルビンが下がっている
・脱水が改善している
・飼い主さんが給餌を積極的に実施可能である
繰り返しになりますが、肝リピドーシス治療の中心は適切な栄養補給です。
よって、飼い主さんのモチベーションは治療を継続する上でとても重要な因子の一つです。
いかがでしょうか?
今回は猫の肝リピドーシスのお話をしました。
肝リピドーシスは早期発見し治療介入すると、最初の96時間を乗り切れたら多くのケースで回復が見込めます。
しかし、無治療だと致死率が90%を超える恐ろしい病気です。
肥満猫が病気で食べないケースでも発生しますが、飼い主さんが痩せさせるために過剰な食事制限をしてしまった結果、発生することもあるので注意が必要です。
今回のお話で、まず肝リピドーシスという病気の存在を認識し、重篤化する可能性が高い病気であることを知っていただけると幸いです。
文責:獣医師 小川