シャンプーをとるか病気をとるか

みなさま、こんにちは。

今回は、基礎疾患を持ち、その治療を行なっている子たちのシャンプーあるいはトリミングの是非についてのお話をしたいと思います。

そもそもシャンプーをする目的は?

以前にも記事にしたことがあるのですが、僕たち獣医師と飼い主さんとではシャンプーに対する概念や目的が異なるケースが多いです。

獣医師がシャンプーを行う場合は、皮膚疾患に対する治療を目的とすることが大半です。

一方、飼い主さんがご自宅やサロンでシャンプーを行うのは美容を目的としています。

基礎疾患が無い、またはシャンプーやトリミングを行うことが基礎疾患のコントロールの妨げにならない場合は、美容を目的としたシャンプーやトリミングについて指導をすることはありません。

シャンプーやトリミングがきっかけで病気が悪化する場合もある!?

しかし、多くの子がシャンプーやトリミングを行うと興奮します。

そして、基礎疾患の中には興奮が引き金となってコントロール不良に陥ってしまうものがあります。

心臓疾患とてんかんを持っているワンちゃん・ネコちゃんは特に注意が必要

その中でも、僕が最も気をつけているものが心臓疾患てんかんです。

いずれの病気も内服でのコントロールを主体とする病気ですが、興奮させると一気に病態が悪化する可能性が非常に高く、最悪の場合、そのまま亡くなってしまうケースもあります

実際に心臓疾患やてんかんの治療をしている子たちの飼い主さんにシャンプーやトリミングをしても良いか相談を受ける機会があるのですが、ここで僕はタイトルの文言を使います。

つまり、美容を目的としたシャンプーやトリミングをすることで興奮させてしまうと、せっかくコントロールできている病気が悪化したり、最悪のケースも十分考えられるので、可能ならば行わない方がいいです、ということを伝えます。

シャンプーの代わりに専用のシートで拭き取りもおすすめ

それでもシャンプーやそれに代わるものを希望される場合、僕は身体を拭くシートを用いた拭き取りを勧めることが多いです。

興奮の度合いで言うと、トリミングサロンよりも自宅の方が落ち着くことができ、全身を濡らすシャンプーよりもシートでの拭き取りの方が、より落ち着いた状態を維持して被毛や皮膚のケアをすることができます。

使用するシートはアルコールの含まれていないものならばどんなものでも構いません。

僕が使用する機会が多いのは、クロルヘキシジンやTris-EDTAが含まれたSKINQOLという製品です。

今回のテーマのように、基礎疾患があり、興奮させたくない子たちのスキンケアにとても重宝しています。

また、皮膚疾患の治療を行う際にも、シャンプーがとても嫌いで実施困難な子にはSKINQOLで拭き取りをしてもらうこともあります。

基礎疾患の治療中、どうしてもトリミングに行きたい場合の注意点は?

また、このお話を飼い主さんにお伝えする際に、もう1点お伝えしていることがあります。

それは、仮にトリミングサロンにいく場合に必ず注意していただきたいポイントです。

具体的には以下のような事柄をお伝えしています。

・トリミングを行うサロンあるいは担当のトリマーさんに基礎疾患を治療している事実を必ず伝えること

・基礎疾患の内容によっては興奮させると病態が悪化する可能性があるため、興奮しそうならすぐに中止していただくこと

・トリミング中に問題がなくても、数日間は気をつけて観察し、変化や気になることがあればすぐに受診すること

とくに、基礎疾患を有していることを必ず最初に伝えてもらうことを念押ししています。

これを認識せずにトリミングを実施して興奮させ、病態が悪化してしまったら全員が不幸になります。

私見ですが、基礎疾患の有無を吟味した上で内容によってはきちんと断っていただけると、とてもありがたいです。

いかがでしょうか。

今回は基礎疾患、とくに心臓疾患とてんかんを有している子たちのシャンプーの是非についてのお話をしました。

飼い主さんがワンちゃん・ネコちゃんを綺麗にしてあげたい気持ちは非常によく分かります。

しかし、病気の治療を行う立場からすると、今回取り上げた内容を正直にお話しすることがベストだと考えています。

今回取り上げたシャンプーやトリミング以外にも、旅行や来客、ペットホテルなど、普段と異なる環境に置かれることで体調を崩すケースには頻繁に遭遇します。

基礎疾患のコントロールをしている子に対して、普段と違うイベントを行う際は早めに相談していただけると僕たちもアドバイスの幅が広がるので、大変助かります。

文責:獣医師 小川