みなさま、こんにちは。
今回は歯の根元の炎症により目の下に膿が溜まり、皮膚に穴が開いてしまう『外歯瘻』という病態についてお話します。
そもそも歯周炎ってどんな状態?
まずは歯周炎について解説します。
歯周炎は辺縁性歯周炎と、根尖性歯周炎に分けることができます。
近縁性歯周炎とは
辺縁性歯周炎は、みなさんがイメージするいわゆる歯周病の病態で、歯の周囲の歯肉に炎症が波及して腫れたり痛みが出たりする病気です。
根尖性歯周炎とは
一方、根尖性歯周炎は歯の周囲ではなく、歯の根本(=根尖)で炎症が生じ膿が溜まり、粘膜や皮膚に排出される病気です。
根尖性歯周炎はどうやって起きるの?
次に、根尖性歯周炎が発生するメカニズムを解説します。
先述したように、根尖性歯周炎は根尖部で炎症が生じる病態なのですが、いきなり歯の根元で炎症が起こるわけではありません。
最も多い原因は、歯の損傷に伴って歯髄炎が発生し、炎症が波及することで根尖周囲炎に繋がるというケースです。
歯が損傷するパターンは様々なものがありますが、特に注意したいのは硬いオモチャやオヤツを与えているケースです。
硬いものを噛み締めたり、噛みながら引っ張ったりするという動きは高確率で歯の損傷を招きます。
特に損傷を受けやすいのが上顎の第4前臼歯という歯です。
上顎第4前臼歯は根元が3つに分かれた大きな歯で、根尖部が眼窩のすぐそばまで伸びています。
よって、ここで根尖性歯周炎が発生すると、目の下の皮膚に穴が開き、膿が排出されるという事態が発生するのです。
外歯瘻と内歯瘻について
皮膚に穴が開き膿が排出される病態を『外歯瘻』と呼ぶのに対し、根尖周囲の粘膜に膿が溜まる病態を『内歯瘻』といいます。
外歯瘻は皮膚に変化があり、膿が排出されるので飼い主さんが比較的気付きやすいのですが、内歯瘻は発見が遅れることがあります。
観察すべきポイントは、歯肉の腫脹、歯肉から膿が排出されているか、などがありますが重度の辺縁性歯周炎と見分けがつかないので、判断が難しいです。
根尖性歯周炎はどうやって治療するの?
次に治療についてです。
根尖性歯周炎の治療は、抜歯と抗生剤、消炎剤の投与が基本となります。
外歯瘻で損傷した皮膚に関しては、二期的な癒合を待つケースもあれば、壊死部を除去して縫合するケースもあります。
根尖性歯周炎にならないために気を付けるポイントは?
最後に予防についてです。
毎日のデンタルケアを行えるようにすることは大前提なのですが、前述したように硬すぎるオモチャやオヤツを与えている場合は、それらを中止していただくことからスタートします。
骨やひづめ、革製のガムを与えることでデンタルケアに繋がると考えて与えていらっしゃる飼い主さんがいますが、これらは歯ブラシを使ったデンタルケアの代替にはならず、歯の破折を招くリスクしかないので、与えないようにしていただきたいです。
また、ゲージや柵を齧るという行動をするケースもあるのですが、同様に歯の破折を招く可能性があります。
こちらは、何故その行動をするのかというところから事情を伺い、行動を修正しつつ歯の健康を保てるような生活を送るという指導を行なっていきます。
いかがでしょうか。
急に目の下が腫れて膿が排出され、驚いて受診された飼い主さんに、
「歯が原因ですね。」
とお伝えすると、
「歯ですか!?」
と二度びっくりされる光景によく遭遇します。
固すぎるものを与えないことも重要ですが、毎日のデンタルケアの重要性についても以下の記事でまとめているので、よければ参考にしてください。
文責:獣医師 小川