犬の乳腺腫瘍

みなさま、こんにちは。

今回は犬の乳腺腫瘍についてのお話をしたいと思います。

犬の乳腺腫瘍ってどんな病気?

乳腺腫瘍は皮膚の腫瘍に次いで、飼い主さんが発見しやすい腫瘍です。

乳腺が分布している場所ならばどこにでも発生する可能性があり、単一あるいは複数同時に発生することもあります。

良性腫瘍、悪性腫瘍いずれも発生する可能性がありますが、猫に比べると良性腫瘍の割合が多いです。

細胞診では乳腺腫瘍の悪性度を測れな

しかし、乳腺腫瘍には一つ厄介な点があります。

それは、針生検による細胞診では腫瘍の悪性度の評価が出来ないことです。

多くの腫瘍は細胞診で、細胞異型・核異型、有糸分裂像など、いわゆる細胞の顔付きを評価して悪性度を評価します。

しかし、乳腺腫瘍の場合はこれが当てはまらず、組織学的な構成や周囲浸潤を評価しないと悪性か否かの判断が付きません。

つまり、細胞診で分かるのは、『乳腺由来の腫瘍である』ということだけで、それが良性か悪性かは切除して病理組織学検査をしないと分からないのです。

乳腺腫瘍の治療は?

これらの理由から、僕が乳腺腫瘍を診察した時は基本的に外科切除を第一選択として提案しています。

また、単一の乳腺腫瘍を切除するときの切除範囲についても絶対的な基準は今のところ定められていません。

腫瘤をくり抜くような核出術、前後の乳腺を含んだ領域切除、片側乳腺全切除、両側乳腺切除術などが報告されていますが、前述したとおり、乳腺腫瘍は切除後の検査をしないと悪性度の評価をすることができないので、術前に術式を決定することが非常に困難です。

僕は、領域切除を中心に切除範囲を設定し、飼い主さんとお話し合いしながら術式を決定していくことが多いです。

未避妊のワンちゃんは同時に子宮卵巣切除がおすすめ

また、避妊手術をしていないワンちゃんの場合は、同時に子宮卵巣切除をすることを勧めます。

これは、残存する乳腺からの腫瘍発生率を下げる目的、子宮卵巣疾患を予防する目的の2つが理由です。

ただし、基礎疾患があり、麻酔時間を可能な限り短時間にする必要がある場合などは子宮卵巣切除を行わないこともあります。

これに関しても、手術計画を立てる際に、飼い主さんにメリットとリスクをお話しして決定していきます。

早期の避妊手術が乳腺腫瘍の発生率を下げる?

少し話題が逸れますが、早期に避妊手術をすることで乳腺腫瘍の発生率が下がったという論文が報告されています。

ワンちゃんの場合、下記の通りです。

・初回発情までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が0.5%に減少

・初回〜2回目までに実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が8%に減少

・2回目以降に実施:未避妊犬と比較して乳腺腫瘍発生率が26%に減少

こちらは以前の記事で紹介していますので、よろしければ参考にしてください。

ワンちゃん・ネコちゃんの避妊手術について

切除した腫瘤の病理組織学検査が完了したら、結果に基づき、以降の治療を計画します。

いかがでしょうか。

今回は犬の乳腺腫瘍についてお話しました。

避妊手術を実施すれば100%発生しなくなるわけではありませんが、やはり乳腺腫瘍を診断したワンちゃんの未避妊率は高い印象があります。

避妊手術を実施する目的・メリットをお話しする際も乳腺腫瘍の発生リスクを軽減できる可能性については必ず飼い主さんにお伝えするようにしています。

今回のお話がワンちゃんの乳腺腫瘍という病気を理解する手助けになれば幸いです。

文責:獣医師 小川